お子様と麻酔について
お子様の麻酔についてご説明します。
はじめに
麻酔が進歩したおかげで、生まれる前の赤ちゃんにさえも、手術や様々な治療が可能な時代になりました。ほとんどが手術の時の麻酔です。しかし、ちょっとした検査や処置の場合でも、お子様に痛みや不快感を与えたくないため、麻酔が必要となります。なかでも全身麻酔の役割は非常に大きいのです。
全身麻酔という言葉は、ほとんどの方がご存知だと思います。しかし麻酔の話を聞く機会はとても少なく、大切なお子様の麻酔や手術を前にして、相当な不安感を持たれることは当然だと思います。
御両親、ご家族の不安や心配は、お子様にも影響を与えます。そのため麻酔について少しでもご理解いただき、不安や恐れをできる限り少なくしてお子様に手術や検査を受けていただけるよう、これからご説明します。
なお、この説明は、あくまでご両親やご家族の理解を助けるための一般的内容です。お子様が手術や検査を受けられる病院での手順や説明内容と、異なることがあるかもしれません。お子様の麻酔についてのご質問は、麻酔を受けられる病院の麻酔科医、担当医へお尋ね頂きますようよろしくお願いいたします。
- 1. 全身麻酔って何でしょう?
- 2. なぜ、全身麻酔が必要なのでしょうか?
- 3. 局部麻酔と全身麻酔の違いは?
- 4. どのような方法で全身麻酔をかけるのでしょう?
- 5. なぜ、全身麻酔の前に麻酔科受診や検査が必要なのでしょう?
- 6. どういう場合に、麻酔をかけられないのでしょうか?
- 7. なぜ、全身麻酔の前には食事が厳重に制限されるのでしょう?
- 8. 全身麻酔からさめるとき
- 9. いつから食事ができますか?
- 10. 全身麻酔による副作用について
- 11. ご両親様へお願い
- 12. 入院前にしておいていただきたいこと
- 入院してから起こる事
- 病気について
- 体を清潔に
- 13. 病院での手術の前の様子はどうでしょう?
- 麻酔外科医師や手術室の看護師が病室を訪問します
- 手術室に入ったら
- 14. 麻酔が始まったら
- 15. 麻酔が終わると
- 16. 全身麻酔や手術の精神面への影響は?
- 17. おわりに
日本小児麻酔学会医療安全委員会
2023年7月改訂
1. 全身麻酔って何でしょう?
2. なぜ、全身麻酔が必要なのでしょうか?
11. ご両親様へお願い
今までの説明で麻酔についてはご理解いただけたことと思います。しかし、それでも尚、ご両親様の麻酔や手術に対する不安はどんなにか大きいこととお察しいたします。けれども、ご両親様の不安はそのままお子様の不安となって現れますので、遠慮なく麻酔科外来などでお尋ねくださり、少しでも不安を少なくして下さい。
私達は麻酔や手術について正しい知識をもって頂き、不安感や心理的影響を少しでも軽くしたいという気持ちから、このパンフレットをお配りしたり、説明を行なっております。多くの病院で、お子様が入院されてからも、手術の前に麻酔科の医師や手術室の看護師が病室を訪問し、手術のこと、麻酔のことなどできるだけわかりやすく説明しながらお子様と友達になり、手術当日には笑顔で迎え入れることができますよう努力をしております。
こうした経験を通じて、家庭でご両親様と入院や麻酔、手術などについての会話を持ったお子様は、抵抗なく麻酔を受け入れ手術を終えることが出来、時には兄弟姉妹にうらやましがられたりする場合もあるくらいです。しかし、「デパートへ行こう」とか、「病院へお友達のお見舞いに行こう」などの偽りの説明により入院させられ手術を受けた場合には、お子様は非常な不安と恐怖心を示すことがわかっております。正しい意思疎通が入院前よりなされていることが大切なのです。病院では何が行なわれるかを、わかりやすい言葉でお話していただきたいのです。
説明はなるべく早い時期から始められ、少しずつ繰り返してください。お子様なりに納得することにより、はじめての手術でも、あたかも既に体験したことがあるように思いながら臨めることでしょう。
12. 入院前にしておいていただきたいこと
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- 入院してから起こること
入院すれば一時的とはいえ家族と別れての生活になります。ミルクを飲む小さな友達も大きな友達もみな一人で病気を治すために病院に入っています。そして、病気が治ったらすぐにお家に帰れること、お家の皆さんが、お子様が早く元気になるのを待っていることをお話ししてください。
- 病気について
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どうして病気を治さなければいけないのか、どこを治すのか部位を簡単に説明しておいて下さい。手術の後には、例えば外科ではおなかに絆創膏が貼られていますし、眼科では眼にガーゼを当てておりすぐには眼が見えませんが心配はいりません。整形外科では手術によってはギプス包帯を巻いていてそこがしばらく動かせませんが、病気が治れば自由になれることなどの説明も忘れないで下さい。
- 体を清潔に
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入院する前に体を十分にきれいにし、爪を切り、マニキュア等を取っておいて下さい。また、ヘアバンドや指輪なども外しておいて下さい。患者さんの観察が十分にできるように、そして他の患者さんを不用意に傷つけたりしないための配慮なのです。例えば義歯や義眼などのある場合は申し出て下さい。これらは無理に麻酔の前に取っておく必要はありません。予め何があるか解っていれば、お子様を恥ずかしがらせない方法も可能なのです。
16. 全身麻酔や手術の精神面への影響は?
入院、手術、麻酔その他の頻回な処置が、お子様の心理に何の影響も及ぼさないということはないはずです。しかし、そうだとしても手術や検査、そしてそのために必要な麻酔を中止するわけにもいきません。そこで、家族の皆様方と医師そして看護師は、それぞれの立場から、それぞれのタイミングを見計らって協力しながら、心理面に与える影響をより良い方向にもっていくように配慮しなければなりません。
ご両親は、どうぞお子様の年齢に合わせて、理解できる程度に手術や入院について話してあげて下さい。特に小さなお子様の場合、なにも事細かく一部始終をお話にならなくても良いのですから、事実に沿って説明し、だまして病院に連れて来るようなことはなさらないで下さい。小さなお子様の場合には数日前にお話するだけでも良いのでしょうが、年齢の大きなお子様の場合には理解しても、現実に対応するまでには多少の日数がかかるかも知れません。
手術や麻酔に関する心配や不安は、年齢に応じて本当に違うものです。小さなお子様は、母親から離れること自体が最大の関心事でしょう、小学生では注射の痛みを最も恐れているかも知れません。中学生にもなると、麻酔や手術そのものによって生じる事態が大きくのしかかってくるかもしれませんし、手術後の将来に不安を感じている場合もあるでしょう。何が最も大きく影響しているかは、結局はご家族の方々が最も理解できるのですから。
そして、こうした努力の上に病院の医師や看護師が、それぞれの立場で説明し、お子様がある程度納得した状態に加えて、お薬による精神の安定などもはかり、むやみな不安感や興奮をおさえながら全身麻酔をすることによって、手術中の肉体的苦痛を極力少なくするという方向にもっていけるのです。
もう一つ大切なことは、手術を受けて退院された後の御家族の態度です。ただ、かわいそうだ、と思ってお子様に気を使うだけでなく、たとえつらい思いをさせたとしても、手術を受けさせたことは、このお子様にとって最良の方法だったのだという自信をもって接して下さい。そして、ある程度会話のできる年齢のお子様の場合には、手術や麻酔、それに入院生活などについて一緒に話してみて下さい。心の中にあるものを口にすることによって、徐々にそれらの刺激的な影響は弱まってくるものです。
17. おわりに
どれほど細かく説明され、どんなに理解し納得したつもりでも、心配や不安感がなくならないのはご家族の立場では当然のことと思います。でも、ある程度までは全身麻酔についてご理解いただけだと思います。せっかく予定された検査や手術を中止したくない気持ちはお互いに同じです。しかし麻酔のリスクがゼロでないことも事実であり、安全のためにご家族のご理解とご協力が欠かせません。
私どもは、お子様の病気を一日でも早く治せるように、手術や検査を安心して受けていただけるように、全ての部門の人々が協力しあっていますので、どうぞ安心してお子様をお任せ下さい。そして、また不安や疑問がありましたら、いつでも麻酔科医や看護師にご質問下さい。病院によっては、お子様や家族を対象に、ビデオを使ったり、手術室で麻酔に使う器具を実際に触れてみながらの説明会を行なっている場合もありますのでお問い合わせ下さい。
最後に、ここにお示ししましたのは、あくまでもご両親のご理解を助けるもので、すべての病院で同じではありません。しかし、すべての麻酔科医は大切なお子様のために安全を確保し、日々努力しております。どうぞよろしくお願い申し上げます。